金庸の世界 ・ 神鵰剣侠
金庸の作品の面白さについては、序章で記載したが、その作品群でも傑作中の傑作と言われる『射鵰3部作』の第2部にあたるのが、この『神鵰剣侠』である。
この作品は1959年から香港の新聞「明報」に3年間にわたって掲載された。
最も原題は、上の画像のように『神鵰侠侶』であり、原題の「侠侶」は仲間や連れを意味し、翻訳すれば『神鵰とその連れ(主人公)』となるのだが、『神鵰と侠客のカップル』と受け止められるおそれがあるとして、訳者により変更されたものである。
しかしながら、読後に残るのは、主人公・楊過(ようか)とヒロイン・小龍女(しょうりゅうじょ)の物語であり、神鵰のイメージは希薄である。だから、別に変更しなくてもよかったのである。
それは兎も角、『神鵰剣侠』は、前作『射鵰英雄伝』の十数年後の設定で描かれており、『射鵰英雄伝』の主人公・郭靖(かくせい)、黄蓉(こうよう)も登場するほか、五代武術家の黄薬師、洪七公、欧陽鋒、周伯通、一灯大師なども登場するのはうれしいところである。
舞台背景は、13世紀の中華・宋王朝が南北に分裂し、金国により北宋が滅ぼされた南宋時代であり、北方ではチンギスハーンを宗主とするモンゴルが勢力を伸ばし、金、南宋へと進攻を図っていたころのことである。
主人公・楊過は、『射鵰英雄伝』の宋を裏切って金国についた売国奴・楊康(ようこう)の遺児であり、楊康と郭靖は義兄弟であったことから郭靖と黄蓉のもとで育てられる。子供のころは、怜悧な頭脳を持ち小生意気で、周りから嫌われるが、それは天涯孤独の中で育ったゆえの自己防衛本能なのであろう。
それ故に黄蓉は、楊過を育てあぐねるとともに、楊過が楊康の死の真相を知った場合のことを考えると、郭靖まで敵に回すおそれがあるのではないかと危惧し、郭靖はしかたなく、自分を育ててくれた道教の一派である全真教に楊過をあずけるのだが、全真教の教徒と水の合わない楊過はここでも問題を起こし、全真教を飛び出すのである。
しかし、そんな楊過は義には厚く、後半、郭靖の長女・郭芙から腕を切り落とされても、郭靖に育てられた義から郭芙を殺めないでいる。逆に、黄蓉に甘やかされ育った郭芙は読者にとってこれほど酷い女はいないとさえ思わせてしまう。
また、古墓派を破門された李莫愁(りばくしゅう)に誘拐された郭靖の次女・郭襄を黄蓉からは復讐のために攫ったと誤解を受けながらも命がけで守る姿に、読者は読み進むにつれて、楊過に情を持つようになる。
一方、小龍女は隔絶された場所で育ったせいか、人情というものは希薄で、幾度か郭襄を手にかけようとするのだが、自分を愛する郭靖のためなら命も惜しまないというアンチ・ヒロインである。
ストーリーとしては長文であるが、一口に言えば、モンゴル軍に抵抗する南宋の攻防を背景にしながら、郭靖、黄蓉のもとを離れた楊過が全真教を飛び出し、18年間、世間とは隔絶された山中の岩穴の中で育った古墓派(こぼは~武道の一派)の後継者である隔世の美女・小龍女に出会い、当時タブーとされていた師弟(師・小龍女、弟・楊過)の域を超えて恋愛感情を持つようになり、一時は、黄蓉が危惧したように、誤解から育ての親・郭靖を父・楊康の敵と狙い、そして、生死を分かつ幾多の艱難辛苦にあいながらも、その愛を貫くという物語である。
その艱難辛苦の過程が壮絶であればあるほど、読者はハラハラ・ドキドキしながらその後の展開から目を離せなくなり、様々な武術派との闘いを絡めて展開する物語のページを次へ次へと捲るのである。
そして、片腕を落としながらも五代武術家を凌駕するほどに技を究めた楊過が、祖国を守るために立ち上がる姿はまさにヒーローそのものであり、そのヒーローをヒーローたらしめたのが、郭靖の次女・郭襄であったことは物語を完結させる金庸の腕のなせる技であろう。
ただし、最後の神鵰の登場は必要なかったのではないか。神鵰の動きからヒントを得て強くなるのはまだいいが、神鵰によって楊過が鍛錬されるということ自体、一種の興ざめではある。でも、まあ、もともと漫画チックな小説にあれこれ言っても仕方がないことだろう。
参考までに、日本・香港で合作されたアニメ『神鵰侠侶 コンドルヒーロー』が、2001年10月11日から2002年4月18日BSフジにて放送された。また、香港で制作されたTV版がチャンネルNECOで放送されている。他のBS放送で放映して欲しいものだ。(徳間書店より単行本、文庫本刊行)
『神鵰侠侶』official site http://www.maxam.jp/shincho/cast.html
チャンネルNECO http://www.necoweb.com/neco/sp/shincho/index.html
金庸の世界 http://www.fiberbit.net/user/m31fb5/kinyo.htm
(画像は official site から借用し、加工したもの。)
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