« 2008年12月 | トップページ | 2009年2月 »

2009年1月

2009年1月24日 (土)

アラン・ロブ=グリエのこと。

Cimg2929a (早稲田文学復刻第1号 追悼アラン・ロブ=グリエから)

アラン・ロブ=グリエが逝去して、もうすぐ1年が経とうとしている。実は、私は彼が亡くなったことを全く知らなかった。

彼の死を知ったのは、昨年の11月ころ、ある本屋で文芸雑誌のコーナーを見ていると、ふと「早稲田文学」に目がとまったからであり、もうとっくに廃刊になっていたと思っていた同誌が、たまたま復刻しているのを目に留めたからだ。

Cimg2927a(早稲田文学復刻第1号)

私は懐かしさもあり、手にとってみた。表紙だけ見ると文芸雑誌らしくない、アイドル路線のような体裁を整えている。ちょっと安っぽいなと思いながらよく見ると、そこに「追悼 アラン・ロブ=グリエ」の文字が浮かび上がった。

「えっ、ロブ=グリエが亡くなっていたの」と訝しりながら、ページを繰ってみた。そして、彼の追悼の特集がそこにあった。

アラン・ロブ=グリエという作家は、日本ではなじみが薄いかもしれないが、20世紀半ばフランスを中心に波及した「ヌーヴォー・ロマン」の代表的作家である。「ヌーヴォー・ロマン(新小説)」は「アンチ・ロマン(反小説)」とも呼ばれ、ミシェル・ビュートル、クロード・シモン、ナタリー・サロートなども「ヌーヴォー・ロマン」の作家である。

「ヌーヴォー・ロマン」は19世紀の自然主義的文学に反旗を翻したものであり、起承転結や過去→現在→未来という単一的な時間経過の描写を否定し、言葉が言葉を呼び、イメージがさらにイメージを呼ぶ、女が男になったり老人が少女になったりと非連続的な時間と発想に基づいた作品が多い。そう言えば、昨年、ノーベル文学賞を受賞したル・クレジオもその一人である。ル・クレジオなどは文章、文字までも否定した。たとえば、「彼は、○Ω▽×¢★と言った」というように。

Cimg2939a(『去年マリエンバートで』 アラン・レネ監督)

そして、フランスでは「ヌーヴォー・ロマン」と同時期、映画界では即興的演出などを特色とする「ヌーヴェル・ヴァーグ」が誕生することとなる。アラン・ロブ=グリエは、ただ単に小説家にとどまらなかった。映画通であればだれもが知っていると思われる、かの傑作「去年マリエンバートで」(アレン・レネ監督)のシナリオを執筆したのがアラン・ロブ=グリエなのである。また、成功したとは言い難いが、彼は脚本だけでなく映画監督さえもこなしたのである。

私がアラン・ロブ=グリエの名を知ったのは、学生のころに安部公房の対談集だったか、「砂漠の思想」という文集からだったからか、はっきり覚えていないが、そこで彼の作品の「消しゴム」か「覗くひと」だかの話が出てきて、面白そうだからいつか読んでみようと記憶に留めてからである。

当時(1974年 昭和49年)も彼の作品を本屋で見つけるのは難しく、私が彼の作品に最初に触れたのは、、『ニューヨーク革命計画』(1972年 平岡篤頼・訳 新潮社)という内容さえも想像できないタイトルの作品であった。

Cimg2934a( 『ニューヨーク革命計画』 )

この作品は、木目から想像したら女からイメージが膨らみ、イメージが動き出し、ついには探偵小説の表紙の絵になってしまったり、不良少年Mがマスクをとると地下鉄の吸血鬼Mとなってしまったり(Mからの連想)、アルファベットの並べ替えで名前が変わっていったりと、自由な発想が発想を呼び、テーマがテーマを呼ぶといった具合に進行していく。

日本でも、『センセイの鞄』でブームを呼んだ川上弘美が芥川賞受賞作『蛇を踏む』で、天井の木目かシミが蛇に見え、その蛇が女になってが女になり、作品の主体の“彼女”と会話をしたり、料理まで作るというのは、ロブ=グリエの手法を踏襲しているように思う。

Cimg2945a(月刊文芸誌『海』から『囚われの美女』)

そして、1977年に発行された文芸雑誌『』に、『囚われの美女』(岩崎 力・訳)が掲載され、私は嬉々としてペ-ジを捲った。その作品はルネ・マグリットの絵画から作家が着想したイメージを探偵小説的手法で小説にしたものだった。イメージがイメージを呼ぶ、まさにそうした作品である。

その後、1983年、ロブ=グリエは『囚われの美女』を映画監督作品として発表する。彼にとって、小説『囚われの美女』は映画『囚われの美女』ではない。彼の作法で行けば、決してA=Aとはならない。AはBになりCにもなる得るのだ。

ドストエフスキー流に言えば、

二二が四というのは鼻持ちならない代物である。二二が四などというのは、ぼくにいわせれば、破廉恥以外の何物でもない。二二が四などというやつが、おつに気取って、両手を腰に、諸君の行手に立ちはだかって、ぺっぺと唾を吐いている図だ。二二が四がすばらしいものだということには、ぼくにも異論がない。しかし、讃めるついでに言っておけば、二二が五だって、ときには、なかなか愛すべきものではないのだろうか。」(『地下室の手記江川 卓・訳 新潮文庫)

ということだろうか。

そんなわけで、今日、BS2でかなり以前に放映されて録画していた映画『囚われの美女』を観なおしてみた。イメージで描かれた作品であるから、30年近くたった今でも古さを感じさせない。逆に、新しくさえみえてしまうから不思議だ。

映画『囚われの美女』と小説『囚われの美女』は、不良少年Mと同じように、マグリットという共通要素だけでつながっている。小説『囚われの美女』が探偵小説風に描かれていたのに対し、映画『囚われの美女』はスパイ映画風に描かれている。

ある夜、ナイト・クラブで踊るブロンドの美女に見とれるヴァルテル(ダニエル・メグイシュ)は、女ボスのサラ(シリエル・クレール)から電話で指令を受けるが、指令を受けている間にブロンドの美女は姿を消してしまう。

その指令というのは、コラント伯爵に手紙を届け、その返事をもらってくるという単純な仕事であったが、手紙を届ける途中、怪我をして道路に横たわるブロンドの美女(ガブリエル・ラジュール)を発見する。左足大腿部を負傷している彼女は、不思議なことに後ろ手に鎖のようなもので縛られている。

Cimg2921a <(怪我を負った謎のブロンド美女を車に乗せ病院を探しているシーン)

彼は手紙よりも彼女の手当てをすることを優先して、車を飛ばしある屋敷に駆け込む。その屋敷には正装をした男たちが集まっており、医者と名乗る男が二人を部屋に案内し鍵をかけ閉じ込める。そこでブロンドの美女は、あわてることもなくヴァルテルを誘惑する。

翌朝、ヴァルテルが目覚めると彼女の姿はなく、彼の首には吸血鬼に噛まれたような傷ができており、屋敷の中は嵐が去ったあとのように荒れ果てていた。しかし、外の世界は嵐の痕跡はなかった。

屋敷を出て、とあるカフェに立ち寄ったヴァルテルは、ウエイトレスが読んでいた新聞の一面に、大きく彼女の写真が掲載されていることに気づき、ウエイトレスに訊ねると、彼女はマリー・アンジュという名で、彼が手紙を届ける相手のコラント伯爵の婚約者であり、婚約直前に失踪したと言う。

ヴァルテルがコラント伯爵邸を訪ねると、伯爵がたった今、心臓発作で急死したことを告げられる。そして、その死に立ち会っている医師は、昨日部屋に閉じ込めた医師(この場合医師を同じ俳優が演じているのは意味がない。例の如く“医師”つながりで同じ俳優が演じているだけである。)であった。更にそこで、ヴァルテルは彼女が6、7年前に交通事故で死んだことを知る。

ヴァルテルとボスのサラとは恋人であるのかベットをともにする。そこで観る夢。ヴァルテルはマリー・アンジュが海辺で武装した男たちに取り囲まれている夢を見る。その朝、サラもヴァルテルが大声を上げる夢を見たと言うのだ。

ヴァルテルが部屋から出て車で帰る途中、マリー・アンジュが道路にまた横たわっていた。そこへ対向からトラックが現れ、武装した男たちとサラがトラックから降りてくる。男たちはヴァルテルに銃口を向け、ヴァルテルは大きな悲鳴を上げるのだった。

Cimg2925a

小説『囚われの美女』が38枚のマグリットの絵画からイメージされて描かれているのに対し、映画『囚われの美女』は、マグリットの絵画のイメージはでてくるものの大きな要素を占めていないように思える。映画は「死」で満ちている。それは、ブロンドの美女を死神とするイメージとしての『死の舞踏』、『死と乙女』、そして『吸血鬼』ではないだろうか。

最近、大手通販でアラン・ロブ=グリエで検索してみたら、『覗くひと』、『迷路の中で』、『反復』の3冊が比較的容易に手ごろな価格で購入できそうなので、この3冊を読むことで、私なりの1周忌追悼としたい。

|

2009年1月18日 (日)

ONCE ダブリンの街角で 私的甘辛評価

Once1

ONCE ダブリンの街角で 』(2006年 アイルランド)を観る。

この作品は好き嫌いが分かれる映画かもしれない。音楽好きな人は最後まで観るかもしれないが、音楽好きでない人、映画に起承転結、アクションやCG、VFXを求める人は、途中で放棄してしまうかもしれない。

確かに映像はあまりよくないし、ハンディ・カメラを使って1800万円という低予算でつくられていることからみれば、映画として楽しむ要素が足りないのではないかという疑問もあるだろう。

映像の多くは歌を歌っているシーンである。かといって、ミュージカルではない。ただ音楽の制作過程を映像にしただけという観もある。しかし私は、この作品に引きずり込まれた。

それは、音楽に賭ける情熱が制作者、出演者に垣間見られるからである。 

ストーリーは極めて単純である。アイルランドのダブリンの街角で、ある夜、古びたギターを手にし歌うストリート・ミュージシャンの男(主人公)の前に、一人の女が現れる。男の夢はロンドンでミュージシャンとして成功することであった。女は10セントのチップを渡し、男に様々な質問をし、その挙句、掃除機の修理まで約束させる。女は街行く人に本や花を売って生計を立てているらしい。

翌日、壊れた掃除機を持って女が現れる。男は女が本当に掃除機を持って来るとは思っていなかったらしく、最初は道具がないと言って修理するつもりはなかったが、結局、修理するはめになる。

この掃除機を持って歩く姿が、どこか犬を連れて歩いているようで滑稽なのだが、まさかチェーホフの”小犬をつれた貴婦人”を意図的にパロったわけではあるまい。

Cimg2903

掃除機を修理するため男の父親が営む店に向かう途中、女がピアノを弾かせてもらえるという楽器店に立ち寄る。メンデルスゾーンを弾く彼女のピアノの才能に興味を示した男は、一緒に演奏することを提案する。

ある日、男は女に自分の部屋に泊まっていけと言うが、女はそれをかたくなに拒む。最後まで男と女の恋愛関係には発展しない。実は、女はチェコからの移民であり、彼女には別居中の夫と娘がいたのだった。その後、お互いの家族を含めた交流が続く中で、歌が作られていく。

男と女は一緒にデモCDを作ることになり、ロック系のストリート・ミュージシャンにバック・バンドをやってほしいと持ちかける。彼らはシン・リジィ(アイルランドの有名なハードロック・バンド)じゃなければやらないと言っていたが、そのバンドも参加するようになり、スタジオ録音がはじまる。

最初は変なバンドだと思って、片手間にミキシングしながら携帯電話で友人としゃべっていたスタジオ・エンジニアも彼らの曲を聴くうちに、本気でミキシングに取り組むようになる。

デモCDが完成し、男は今夜コーヒーでもどうかと女を誘うが、女は来なかった。男はデモCDをかなり年配の父親に聴かせる。男の「どう?」という不安げな質問に、父親は「いい曲だ。間違いなくヒットする」と褒めるのであった。

ロンドンへ出発する日、男は彼の前から去って行った元の恋人に電話をする。彼女はすぐにでも会いたいと言うのだ。男は女に楽器店で弾いたピアノを贈り、デモCDを手に意気揚々とロンドンへ旅立つのであった。

Once2

この作品、女の娘の“イヴァンカ”という名前はわかっても、最後まで男と女の名前はわからない。名前をつけないことによって、音楽に打ち込む男と女に普遍性を持たせようとしたのだろう。起承転結も大きな山場もない。しかし、この作品には観るものに訴える何かがある。

それは何か。やはり、作品全編を貫く、音楽に賭けた夢と情熱が、ひしひしと伝わってくるからであろう。

主演の男・グレン・ハンサードと女・マルケタ・イルグロヴァは、実際にプロのミュージシャンであり、監督・脚本は、グレン・ハンサードとともに、「The Flames」というバンドのメンバーでもあったジョン・カーニー

この作品は、全米では2館からの公開だったが、口コミで話題になり、140館まで劇場数を増やし、サウンドトラックは全米チャートで2位を獲得した。無名の監督・主演者がアカデミー賞オリジナル歌曲賞を受賞し、一躍有名になった。作品よりも現実の方が、本当のサクセス・ストーリーとなったのである。

私的甘辛評価 ★★☆ (満点は★4つ、☆は0.5点) 映像がもう少しよければ★★★をつけたい。

その他の私的甘辛評価(ハイビジョン放映、ブルーレイのみ)

○ 『Returner リターナー』(2002年 日) ★★

○ 『バイオハザードⅢ』(2007年 米) ★

○ 『アイ・アム・レジェンド』(2007年 米) ★

○ 『ダークナイト』(2008年 米) ★★☆

○ 『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(2007年 米) ★

○ 『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12か月』(2008年 米) ★

○ 『トランスフォーマー』(2007年 米) ★

○ 『クローズZERO 』(2007年 日) ☆

○ 『レミーのおいしいレストラン』(2007年 米) ★☆

○ 『13ゴースト』(2001年 米) ☆

○ 『魍魎の匣』(2007年 日) ★☆

○ 『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』(2007年 米) ★

○ 『ディスタービア』(2007年 米) ★

○ 『三銃士』(1993年 米) ★

○ 『エバン・オールマイティ』(2007年 米) ★

○ 『バンズ・ラビリンス』(2006年 スペイン=メキシコ) ★☆

○ 『エラゴン 遺志を継ぐ者』(2006年 米) ★

○ 『ベオウルフ 呪われし勇者』(2007年 米) ★

○ 『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(2006年 米) ★☆

○ 『沈黙のステルス』(2007年 米=英=ルーマニア) ★

|

2009年1月12日 (月)

名曲『People Get Ready』 と小坂忠

カーティス・メイフィールド率いるインプレッションズが歌った名曲『People Get Ready』(1965年)は、当時黒人の参政権を訴える公民権運動、黒人解放運動の中で人々に浸透し、歌い継がれて行くことになる。

People

『People Get Ready』(ピープル・ゲット・レディ)は

人々よ準備をして、列車に乗り込もう。荷物も切符もいらない。ただ神に感謝すればいいんだ。

という内容の歌であり、神の前では皆一人の人間であり、信じる心さえあれば救われるという虐げられた黒人たちの希望が込められている。

この曲は様々なアーティストがカヴァーをしているが、日本で知られるようになったのは、ジェフ・ベックのアルバム『flash』(1985年)でロッド・スチュワートが歌ってCMなどに使われてからだろう。ハスキー・ヴォイスで情感たっぷりに歌い上げるロッド・スチュワートとジェフ・ベックの鳴きのギターのハーモニーが素晴らしい。

Photo_2

以前、私はこの曲をCDで聴きたくて、ロッド・スチュワートのアルバムを探したが、日本盤ではどこにも収められていない。ジェフ・ベックの『flash』を購入すればいいのだろうが、どうせならロッドの『Downtown Train』なども入ったCDが欲しいということで、ネットで探してみると、あったのである。アメリカ盤でアルバムタイトルが『Downtown Train』、その中の1曲に収められていた。

そして、忘れてはならないのは、ボブ・マーリーのあの名曲『One Love』である。この曲の副題は「People Get Ready」である。ボブ・マーリーが、『People Get Ready』に触発されて作った曲が『One Love』であり、メロディ・ラインは違うが

一つの愛、一つの心、みんな一緒に幸せになろう。神に感謝を捧げよう。そうすれば僕も満足だ。

というような詩の内容には、両者通じるものがあることは確かである。

そこで小坂忠の登場であるが、私が『People Get Ready』をこのブログに書いてみようと思ったのは、1月10日、WOWOWで放送していた『soft edge~Winter Rhythm Selection 静寂と音楽の境で~』 という番組のトリを飾って小坂忠が登場し、『People Get Ready』を歌ったからだ。

小坂忠は、現在牧師とミュージシャンを兼業しているらしく、『People Get Ready』の詩を考えれば牧師だということにも納得できるが、現在もなおミュージシャンでいたことを私は知らなかった。いや、知らなかったというより、小坂忠の存在を忘れていたという方が正しいだろう。

小坂忠は、このブログのタイトル『風街浪漫』を名づけるもとになった『はっぴいえんど』の前身で、細野晴臣松本隆柳田ヒロなどで結成された『エイプリル・フール』からソロに転じたシンガーソングライターであり、私が小坂忠を知ったのは、彼が1971年にアルバム『ありがとう』を出してからだ。

Photo

当時、私は高校生で、『ありがとう』をステレオで聴いていた時に、父が「何だこんなの歌じゃない」といって蔑んだのを思い出す。私としては、「あんたに音楽の何がわかるのか」と問いただしかったが、口にはしなかった。

この『ありがとう』の中に私が邦楽の名曲だと思える「機関車」という曲がある。

忘れものは もうありませんねと 機関車は走るのです

君はいつでも僕の影を踏みながら 先へ先へと走るのです

目がつぶれ 耳も聞こえなくなって それに手まで縛られても…

どこか、最初のフレーズが『People Get Ready』に通じるものがあるように思えるのだが、私の深読みのしすぎではないだろう。

|

2009年1月11日 (日)

金庸の世界・越女剣

Etujyoken中編集『越女剣(えつじょけん)』を読み終え、金庸の全作品を読破したことになる。思えば、金庸の最初の邦訳作品『書剣恩仇録(しょけんおんきゅうろく)』(1955年・著 1996年邦訳)が発売された直後、図書館に購入のリクエストしてから、私が『書剣恩仇録』を手にして、12年が経過した。

この間、金庸の作品が次々に邦訳され出版されるのを待ちわびながら、また、時には文庫本になることを待ちわびながら、金庸作品が読めることを楽しみにしてきた。しかし、それももう終わりである。

私が全作品を読破した作家は、ドストエフスキーと金庸だけである。両者に共通することは、どちらの作家もドラマツルギーだということである。読んでいて面白いし、退屈しない。その上、金庸はテンポが速い。

さて、『越女剣』は、「白馬嘯西風(はくばしょうせいふう)」、「鴛鴦刀(えんおうとう)」、「越女剣(えつじょけん)」の3編の中編からなる。

「白馬嘯西風」~白馬は西風にいななく~は、砂漠で両親を殺された李文秀(りぶんしゅう)がカザフ族の集落に逃げ込み、漢族の老人(けいろうじん)に救われて育てられ、カザフ族の少年・蘇普(スプ)と恋に落ちるが、蘇普の父親が妻を殺害した漢人を忌み嫌っていることから、蘇普との恋を諦める。その10年後、砂漠に迷い込んだ李文秀は謎の老人・華輝(かき)と出会い、武術を授けられ、計老人の家に戻ったところに、蘇普が恋人を連れて現れる。そして、そこへ、偶然にも両親を殺害した男たちが現れ、計老人らに襲いかかってくる…という物語である。

「鴛鴦刀」は、得たものは「天下無敵になる」といわれる鴛鴦刀の争奪戦を描いた物語。

「越女剣」は、歴史に名高い、越王・勾践と呉王・夫差の戦いを背景に、范蠡(はんれい)と西施(せいし)との有名な恋物語の逸話に神技ともいえる剣の妙技を会得している謎の羊飼いの少女・阿青(あせい)を絡めて描いた金庸の最も短い物語。

中編集『越女剣』は、長編作品のヒーローたちへの思い入れや執着もなく、あっさり読み終えられるので、最後に読む作品として、ちょうどいい内容の作品となっている。

|

2009年1月 4日 (日)

『SHM-CD』、『Blu-spec CD』続々登場

『SHM-CD』、『Blu-spec CD』、『HQCD』などの高音質CDが続々と登場し、財布の中身が多少なりとも心配である。それでも、オーディオ・ファンとしては、嬉しい悲鳴には違いない。

Cimg2897a

ところで、1月2日に注文した『Blu-spec CD』のS&G『卒業』、キャロルキング『つづれおり』、ボズ・スキャッグス『シルク・ディグリーズ』が、なんと1月3日にもう届いたのである。大手通販も正月休みがるのではないかと思っていたのだが、普段よりも早いではないか。

いずれも名盤には違いないのだが、『卒業』は1967年、『つづれおり』は1971年、『シルク・ディグリーズ』は1976年の録音であり、『Blu-spec CD』になってようやく音を楽しみながら聴けるCDとなったような気がする。

確かに、『卒業』の「サンド・オブ・サイレンス」、「スカボロ・フェア」、「4月になれば彼女は」の名曲ぞろいであり、『つづれおり』に至っては、「イッツ、トゥ・レイト」、「君の友達」など珠玉の名品がつづられた音楽史上に燦然と輝く大傑作である。

そして、『シルク・ディグリーズ』は、数多くカヴァーされているあの名曲「ウィアー・オール・アローン」を含むボズ会心の作品には違いないのであるが、その録音状態は、決して満足のいくものではなかった。特に『卒業』は録音状態が悪い。それも、サウンド・トラックだから「ミセス・ロビンソン」はショート・ヴァージョンである。

しかし、『Blu-spec CD』になって、ようやくハイファイ・オーディオとして聴けるようになった。オーディオ・ファン、洋楽ファンの方には、これらの名曲をぜひ聴いてもらいたい。

Cimg2899a

それから、『SHM-CD』の作品も忘れてはならない。

今回購入したのは、アバ『ゴールド(ベスト盤)』、バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』、シカゴ『16』、BoysⅡMen『LEGACY(ベスト盤)』、エリック・クラプトン『クリーム・オブ・エリック・クラプトン』、ライオネル・リッチー『Best Of』、アラン・パーソンズ・プロジェクト『運命の切り札』、『アンモニア・アヴェニュー』、エクストリーム『 Pornograffitti 』、ドアーズ『ハートに火をつけて』の10枚である。

アバ、クラプトン、ドアーズ、バンドは昔の録音であるから、録音状態は良好とは言い難い、上記『Blu-spec CD』の作品と感想は変わらない。しかし、それでも現時点では最高の音質なのである。

BoysⅡMen『LEGACY(ベスト盤)』とライオネル・リッチー『Best Of』のブラコン系は、もともと録音状態がいいので、SHM-CDで更に高音質が際立っている。聴いていて、その音質に惚れ惚れとしてしまうのである。

アラン・パーソンズ・プロジェクトの作品も同様に、もともと優秀録音なので、SHM-CD化で更にその音質は向上している。

この中で私が一番押したいのは、エクストリーム『 Pornograffitti 』の中の「more than words」である。ヘヴィメタバンドがアコースティック・ギターで爽やかに「言葉なんかよりも…」とラヴ・ソング・バラードを歌うのである。この1曲を聴くだけでも、このアルバムを購入した価値があったと私は思う。

概して、ヘヴィメタ系、ハードロック系のバラードには、いい曲が多い。ツェッペリンの「天国への階段」はもとより、フォリナーの「ガール・ライク・ユー」、ミートローフ「愛にすべてを捧ぐ」、Warrant「Heaven」、Whitesnake「Is this love」、Bad English「When I see you smile」などなど、数え上げたらキリがないほどである※ SHM-CDで聴くフォリナーの「ガール・ライク・ユー」は素晴らしい。

もっとも、私はヘヴィメタは聴かない。ちょっとうるさ過ぎる。エクストリームの『 Pornograffitti 』(1990年)は、「more than words」をSHM-CDで聴きたくて購入したのだが、アルバムを聴いてみると、その他の曲の演奏も歌もしっかりしていて、録音状態も優秀録音に近いため、聴いていて疲れない。「When I first kiss you」などは、ピアノをバックにモダン・ジャズのノリで、これもまたヘヴィメタ・バンドとは思えない佳品である。「俺たちはなんでもできる」という自信がこの作品には窺われる。

Monsterそう言えば、ヘヴィメタ系のバラードを集めた『MONSTER BALLADS』という輸入盤があるが、そのアルバムの裏面には「EVERY BAD BOY HAS HIS SOFT SIDE」といううたい文句がある。「すべての悪ガキにも優しい側面がある」とでも訳すのだろうか、このうたい文句とエクストリームの『 Pornograffitti 』のジャケットに描かれている悪ガキを象徴するような少年を見て、思わず、ほくそ笑まずにはいられない。

Boy2

|

2009年1月 1日 (木)

『雪山飛孤』 DVDを観る。 

Setuzan(画像はMAXAMのHPから借用)

雪山飛孤(せつざんひこ)』(DVD-BOX 全40話)を12月27日から30日にかけて一気に観た。

観はじめたら、止まらなくなってしまう。 金庸の作品には、そんなストーリー展開の魅力がある。

このDVDは、金庸の『雪山飛孤』と『飛孤外伝(ひこがいでん)』の2作品を香港でTVドラマ化したものであり、原作を忠実に描いているとは言い難く、特に、物語のラストと袁紫衣(えんしい 原作では紫の衣装をまとっていることからつけられた仮の名)のエピソードは、「えっ!」と思えるほど変更、シナリオ加筆されている。

中国政府の検閲のせいか、原作では袁紫衣(鳳天南の娘)と鳳天南(ほうてんなん 袁紫衣の父)の父娘同士の仇討ちが、TV版ではただの父娘の確執劇に止まっている。また、袁紫衣は、実は円性(えんしょう)という名の尼僧であるが故に、主人公・胡斐(こひ)との恋愛は成就されないのであるが、TV版では袁紫衣の最期に胡斐と夫婦となっている。それも、袁紫衣は毒のために死ぬのであるが、原作にはそんなくだりはないのである。

そして、原作では胡斐と苗人鳳(びょうじんほう)の決闘中…原作では、この時でも苗人鳳の相手が胡一刀の息子・胡斐だと気づいていないのである…に、胡斐が最後の一撃を苗人鳳をあびせるか、胡斐が想いを寄せてしまったその娘・苗若蘭(びょうじゃくらん)の父親を殺せるのか(その場合、自分が死ぬかもしれないのだが)の2者択一のうちに終わるのだが、TV版では、苗人鳳が、この時には既に謎の死を遂げている田帰農(でんきのう)に捕らえられて拷問にあったり、この田帰農が射鵰英雄伝などに登場した周伯通(しゅうはくつう)が残した秘伝書を発見し、武術がパワーアップしているなど、原作にはないものが、その後も延々と続くのである。

他に違っているものは

① 陳家洛率いる秘密結社の名が紅花会からTV版は鉄花会になっている。

② 陳家洛は乾隆帝の実の弟なのにTV版は甥になっている。(史実ではない)

③ 袁紫衣が乗っている白馬は、原作では紅花会11番差配の駱冰(らくひょう)が胡斐の侠義に感動して、胡斐のために贈ったものであり、袁紫衣はそれを託されたに過ぎない。

④ 玉筆峰山荘に集まるのは、原作では田帰農ではなく、その娘・田青文(でんせいぶん)である。

⑤ 原作では、胡斐の母は胡一刀の死の直後、苗人鳳に胡斐を託し、自ら首をかき切って死んでいる。

⑥ 程霊素は自分の死をいとわず、胡斐の体内にある毒を吸いとって死ぬ。

など、他にも多数ある。

どちらかというと、TV版の方が原作よりも主要登場人物の運命が過酷になっている。それは、やはり視聴率とか袁紫衣をもっと登場させようとかいった理由があったのだろうか。

いずれにしても、ドラマとしても面白いことに変わりはないのだが、TV版は胡斐と袁紫衣、程霊素(ていれいそ)、苗若蘭との恋愛に重きをおいたきらいがないでもない。

|

« 2008年12月 | トップページ | 2009年2月 »