ロマン派と象徴派の画家たち 2
クノップフ (フェルナン・クノップフ 1858-1921 ベルギー)
Memories(パステル画)
クノップフは象徴主義の作家の第一人者である。その第一人者たらしめる一枚の作品こそが『Memories』であろう。
この絵には、何とも言えない不思議さが漂っている。
一見すると、これからテニスをしようとするために集まった女性たちでもあり、テニスをし終わって帰ろうとしている女性たちのようにも観える。
もちろん、100年以上もの前、はるか昔の貴族階級にしかできなかったテニスである。そして、「昔はこんな格好でテニスをしていたのか」と思うだけで、次の絵を観てしまう。
しかし、もう一度、戻って観てみると、最初に観た印象だけではすまなくなる。「何かが違う」、「どこか、不思議だ」という具合に。
この絵に登場している7人の女性は、互いに視線を交わしていない。右に横顔を向けている2人以外は視線の方向も様々である。
そして、この絵を観るであろうギャラリーにさえも視線を向けていないのである。
不思議なのは、それだけに止まらない。7人の女性の顔をよく観ると、みな似た顔をしているのだ。(もっとも、判別できるのは5人であるのだが…)
それもそのはず、この絵のモデルはクノップフの妹・マルグリットなのである。
7人の女性の中で、ただ1人だけ帽子をかぶらず、ラケットも持っていない女性が描かれているが、クノップフはこの女性の分身として他の6人を描いた。その女性は、まるでウエディングドレスのように白いドレスを着ているではないか。
タイトルが『Memories』(記憶もしくは思い出)となっていることを鑑みれば、おそらくこの先嫁いでいくだろう妹を自分の「記憶に刻み込む」ために描いたのだろう。
いや、それだけでは、この絵の不思議さは伝わってこない。記憶に刻み込むためなら、淡くなっていくパステル画にはしなかったろう。
記憶や思い出は、その人の「死」によって淡くなっていく。だからこそ、今ある「生」が美しく感じられるかもしれない。そして、だからこそ、クノップフはパステルでそれを象徴として描いた。
クノップフは、「記憶」とは裏返しの、今現在の現実に存在する妹の「美」そのものを、誰にも目を合わせないように、自分ひとりのものにして、この作品に封じ込めたのではないだろうか。
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