ロマン派と象徴派の画家たち 5
ロセッティ (ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 1828-1882 英国)
プロセルピナ(1877年 油彩)
ロセッティは、イギリスのヴィクトリア王朝期の美術に革新をもたらした。彼は、いわゆるラファエル前派の象徴主義画家であり詩人でもある。
ラファエル前派が目指したものは、当時最高の芸術とされていたラファエルの劇的で、わざとらしさを否定し、アカデミックな様式からイギリスの絵画を解放し、ラファエル以前の、自然主義的な素朴さへに戻そうとしたものである。同グループは、ロマン主義的な絵画で人気を得た。美を追求し、繊細な写実は、様式的にはアカデミーと同じであるが、理念的には象徴派へとつながって行ったのである。グループ自体は、1850年代までしか続かなかったが、人気は衰えず、その後の象徴主義絵画のみならずシュールレアリスム運動にも、大きな影響を与えることとなった。
ロセッティは緻密な自然描写に加え、独特の色彩感性により官能的、かつ神秘的な女性像を配した。そこには画家の美意識が窺われ、19世紀後半の世紀末の憂愁と頽廃美がある。
ロセッティの中世趣味と女性像はエドワード・バーン・ジョーンズらに引き継がれた。
ロセッティは、破滅的な人生を送る芸術家の典型であった。彼はモデルに狂おしくなるほどの美女を求めた。そして、彼は画家とモデル以上の関係を結ばなければ、モデルとして描こうとしなかった。愛と官能と背徳の美が彼の絵の裏側に見え隠れする。だからこそ、彼の作品に惹きつけるものがあるのではなかろうか。
詩篇「神曲」や「新生」で知られるダンテ。ダンテには、24歳で亡くなったベアトリーチェという永遠の恋人と呼ばれた女性がいた。ダンテは、ベアトリーチェ死後も彼女に恋い焦がれながらこの世を去る。その詩人の死から500年後、同じ名前を持つ画家は、ベアトリーチェの面影を追い求めた。画家の名前はダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ。彼は1828年にイタリア人亡命者・・・イタリアにおいて革命的秘密結社に関係したかどで死刑判決を受けた詩人であり学者であった・・・の長男としてロンドンで生まれる。
ロセッティは早くから人生を絵画と文学に捧げようと決めていた。しかし、彼はアカデミーの美術教育に失望した。ルネサンスの巨匠ラファエルの芸術を絶対とするアカデミーの伝統に納得出来ないロセッティは、20歳のとき退学を決意し、友人の画家らとともに『ラファエル前派兄弟団』というグループを結成する。「聖母マリアの少女時代」はラファエル前派を結成した当時に描いた始めての油絵である。中世のフレスコを思わせる画風と鮮やかな色彩。その中に込められた聖書の物語がそこにある。
ロセッティは、モデルにモデル以上の関係を求めた。そして、そのモデルは、美以上のものを持っていなければならなかった。それは、彼の絵を観れば、おのずと理解が及ぶことであろう。
ロセッティにとって、ファム・ファタール(宿命の女)は3人いたのである
ロセッティがエリザベス・シダルという女性と出会ったのは22歳の時、帽子屋の店員をしていた彼女は、ラファエル前派の画家達に愛されたモデルであった。テート・ブリテン美術館には、彼女がモデルとなった「ベアタ・ベアトリクス」。そして、その絵の隣の部屋には、シダルがモデルを務めたもう一枚の絵がある。ラファエル前派の仲間だったミレイの「オフィーリヤ」(夢の美術館に展示)である。
ロセッティにとってシダルこそ理想の女性であり、か弱く神秘的なシダルは、ダンテの恋人ベアトリーチェそのものであった。彼はシダルと婚約し一緒に暮らし始める。夢見るような眼差しと透けるような肌を持ったシダルは、ロセッティにとって霊感の泉だったのである。
そして、ロセッティはもう一人の運命の女と出会う。ジェイン・バーデンという17歳の少女である。彼の心はシダルから離れていき、ジェインをモデルに、詩人ダンテと自らの愛を重ね合わせ、その思いを捧げるようにベアトリーチェを描き始める。
ロセッティの新しい恋は、画家モリスとジェインが結婚したことで終わったかに見えた。そして、ロセッティはシダルと正式に結婚する。彼は、結婚後も他の女性達と関係を持った。シダルとは正反対のファニー・コンフォースのような性的で肉感的な女性とも並行して関係を続けた。
病弱だったシダルは、心労を重ねた末に赤ん坊も流産してしまう。彼女は、常用していた阿片を過剰に服用し、「乾ききった心が永遠に私を取り巻いている。魂のない目が私に魔法をかけるのをやめた。主よ、あなたのもとに行けるでしょうか?」という言葉を残して32歳の短い生涯を終えたのである。
<アクスコ倶楽部・『ロセッティ展』から http://www.fiberbit.net/user/m31fb/rossetti.htm>
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